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「…正気かよ」
クリストファーの声が夜の山に響いた。セオドアは10分の思考から目覚めて口を開く。
「これでは勝てなさそうですが…負けはしないでしょう」
「そうだ、負けなければいいのだ」
ダニエルは5本の松明を手に得意気な顔をした。
その時、軋んだ扉の開く音がして城から兵がでてきた。
「行くぞ」
ダニエルと20の兵は白馬にまたがると城を目指し出した。
※※※
デンス自治区にてフーバー一族が拠点にしているのはデンス・メッチェン城である。いばらに囲まれたこの城は攻めにくい。そこで、フーバー一族をおびき出すことにした。
ダニエルが語った作戦はこうだ。
まず、デンス自治区に住む孤児の子どもたちに城を取り囲むように各地に散ってもらう。ラベンダーズバリーの特産品である、100キロ先まで届くこの縦笛を持たせ故郷のわらべ歌を奏でてもらう。歌に合わせ、四方に散った5万の兵が松明をふりながら嘘泣きをしてもらう。
デンス自治区の人々は絆がかたい。味方が戦いをやめるよう説得し城を囲んでいると勘違いした人々は慌てて外へと飛び出した。
「攻めるなら今です。」
セオドアのささやきにダニエルは首を振る。
「欲しいのは土地ではない、デンスの民の心だ。」
ダニエルは自分の兵に向かい、大きな声をあげた。
「皆のもの、剣や弓をしまえ。
私の通る道をあけよ。
馬に乗るものはおり、徒歩のものは平伏しろ」
デンス・メッチェンからは立派な馬に乗った男が兵を率いてやってくる。男が止まったのをみると、ダニエルは1人で馬に乗りすすんだ。
クリストファーが慌てて止めようとするのを無言でせいする。
「お前はだれだ。」
男は大きな声をあげるが、気にせずダニエルは男に近づく。
威嚇するように男は剣を抜くとダニエルへ剣先を向ける。
「…危ない!やめてください!」
思わずクリストファーが叫ぶと駆け寄ろうとする。
「私に構うな…!」
「…はっ?」
ダニエルの低い声に男は目を見開く。剣が迷うように宙をさまよった。
ダニエルがフードに手をかけると、蜂蜜色の髪が広がる。男が息を飲むのがわかった。
「私を忘れたのか、アルベルト」
「…ジョージ…陛下…」
高い金属音が響き、剣が地面に落ちた。
アルベルトは動き方を忘れたかのようにダニエルの顔をただ見つめていた。
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