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「この2年にも及ぶ戦いのせいで私はボロボロだ。だれもこんな私を魅力的には思うまい。クリスよ、お前ぐらいの美しさが私にもあればなぁ…」
クリストファーはくすりと鈴の音のような声で笑う。
「この手はダニエル様のご健闘の証ではないですか。私を含めどれだけの者がこの美しい手で生命を救われたのでしょう。」
その微笑みも天使のように美しく、嫌みにしか思えない。
「ご覧ください、あなたの守ったパールズベイを」
窓の外を雲がゆっくりと泳いでいく。
「2年前と同じ王都とは思えない」
クリストファーも窓の外を眺めつぶやいた。その顔にふんわりと笑みが浮かぶ。
「小さい時、よくこの海岸沿いを散歩しましたね。貝殻を拾ったり、追いかけっこしたり…
夜中にダンスの練習をしに行ったこともありました。」
その言葉にダニエルは苦笑する。
「あの晩は面白かったな。今思うとなぜ砂浜でワルツを踊ろうと思ったのか皆目見当もつかん。砂に足は取られるし、転んでドレスは砂だらけになるし…」
「こっそり帰ったのに門の下に腕組みしたシスターテレジアが立っていましたね」
ダニエルは若者特有の涼やかな笑い声をあげた。それをクリストファーは愛おしげに眺める。
ダニエルの足元に跪くとその手の甲にそっと口付けた。
「ほら、私の見たて通りでございましょう。あなたには王たる器であると。
よくぞ、この美しい王都を復活させてくださった、ダニエル様」
「いや、私の力なんぞ微々たるものよ。お前やアルベルトフーバー、セオドアマクラーレンのおかげだろうよ。」
その時、扉の軋む音と共に足音が近づいてきた。
「陛下、ご相談がございます。」
黒い軍服に長身を包んだ、気難しいそうな顔をした青年がダニエルのほうへ向かう。
まだ幼さを残すダニエルやクリストファーとは違い、青年の顔には数々の歴史を思わせる傷跡があった。
クリストファーは不愉快そうに青年を見つめ、青年もダニエルの手をとるクリストファーの手元を一瞥する。
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