それぞれの思惑

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悪趣味な金色のシーツが敷かれた大きなベッドに座り、ダニエルはため息をついた。濡れた髪が顔に張り付く。 ここは後宮の奥、誰も入らない場所。ダニエルの髪を乾かしていた侍女は言葉少なく帰って行った。 頭は叩かれたかのように冷え、手は震える。 静寂を切り裂くように扉の開く音がした。騎士の正装である飾りボタン付きの騎士服をみにまとったアルベルトが難しい顔をしていた。無言で隣に腰掛けるとベッドが軋む音がした。 いよいよ覚悟を決めないと… ダニエルは大きく深呼吸をする。しかし、体の震えは止まらなかった。 自分を好きでもない男に捧げるのが嫌なのか、義母に自分を褒美として与えられる惨めさが嫌なのかはっきり分からない。 情けないとは思いながらも吐きそうな恐怖はどうすることもできなかった。 「…!」 太い指が頬に触れる。ダニエルの心臓は跳ねた。 「そんなにいやなのか」 アルベルトの低い声が耳朶をうつ。気付かないうちに流れていた涙がアルベルトの指を濡らしていた。 無言でうつむいたダニエルにアルベルトは何も言わない。無表情でじっと自分の腕を見つめたうえ、迷ったようにダニエルの背中に腕を回す。ダニエルの身体がぴくりと震えた。 そのまま腕は優しく背中をなでる。子どもをなだめるようなしぐさに少しほっとし、ダニエルはしゃくりあげ泣く。 アルベルトがいなければ今のダグラス王国はない。感謝はしているけれど感情がついていかない。 「…私を好きにしろ」 絞り出すように出した声は震えていた。アルベルトはダニエルを睨むように見ると肩をぎゅっとつかんで自分のほうに向かせた。 「もうやめましょう。」 冷たい、呆れたような声でアルベルトはつぶやく。 「…え?」 「貴女はまだ子どもだ。」 眉間にしわをよせ、不愉快そうに吐き捨てた。ダニエルは嬉しい反面、いたたまれない気持ちになった。 「だが、褒美は、」 アルベルトは立ち上がると踵を返した。 「もういいです」 「待って」 申し訳なさからアルベルトの袖を掴むと、振り返ったアルベルトは珍しく焦ったような顔をしていた。 「離してください」 これ以上彼を不快にさせてはいけない。ダニエルが手を離すとアルベルトが強い力でダニエルを引っ張り腕の中に抱きしめた。 「…分かりました。いつか貴女をください。」 アルベルトが離れる瞬間、唇に柔らかいものがふれた。
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