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「おい、殿下のことはきちんと探したのか」
「黙れフーバー、全部お前のせいだろうが」
本陣の中でクリストファーとアルベルトは睨み合った。
あの日の晩、ダニエルは白い馬とともに消えていた。三日三晩探しても見つからず、途方にくれていた時国王エドワードの命令があった。グリーフランド地方を討伐せよ、と。
ダニエル不在のまま、兵は西を目指した。灼熱の砂は風とともに巻き上がり、不安定な足元にみな疲労が溜まっていった。
パールズベイを出て3日たった時、ようやくグリーフランドの麓についた。陣を敷いて休んでいたアルベルト達はテントの外が騒がしくなり、様子見に外に出る。
デンスの民が15人ほど集まり土下座をしていた。1番前の男がアルベルトのズボンにすがりつく。
「もう限界だ!太陽の君に会わせろ!」
初めて聞く通り名だったが、すぐに誰のことか分かった。
「今まで戦の時は必ず来てくださったのになぜ来ないんだ!」
「今回の移動は今までで1番苦しかったんだぞ」
あの柔らかい手で撫でられたい、水仙のような香しい匂いを嗅ぎたい、鈴のような声を聞きたい…
むさ苦しい男たちは野獣のように吠え、キョロキョロと本陣の中を見回した。
「…殿下はお前たちを訪れていたのか」
ポツリとアルベルトが呟いた。
1番前にいた大柄な男がアルベルトに掴みかかる。その瞬間アルベルトは男の手首を抑えた。腕の中で男は暴れる。男は大柄であったが、アルベルトはさらに大柄である。
「ちきしょう、離せ。俺たちの女神に会わせろ!首長は俺たちのことを使い捨ての駒だと思っているだろう。洞察力も思いやりもないもんな!」
「…」
アルベルトの目に困惑が浮かぶ。緩やかに腕の拘束がほどかれ、男はすり抜けた。
「…確かに私のせいだ…」
ふらふらとアルベルトはテントの外に出ると立ち尽くした。その肩がわずかに震えている。滅多に表情を変えない首長の異変に男たちは責めることを忘れる。
風が西向きに変わる。遠くで地響きのようなギャロップが聞こえた。風に乗って砂ぼこりが舞う。
闘争心のない指揮官に、疲れ果てた兵には退却以外なにもできることはなかった。
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