それぞれの思惑

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「私は父にはなれない」 ダニエルはさみしそうに笑う。 驚くアルベルトの前を一歩踏み出す。風に金の髪がうねる。 振り返ったダニエルの顔は優しさで満ちていた。 「私には私の道がある。それを見つけることが父への弔いだと思う。」 丘をおりつつあるダニエルには、アルベルトが驚いた顔で自分を見つめていたのに気がつかなかった。 「…アイリーン…?」 アルベルトの声は風に溶けていった。 ※※※ 「しまった、囲まれた!」 辺り一面から火の粉が上がる。セオドアは考えを巡らせるも多勢に無勢、どうしようもない。 「どうすれば許されるか、考えましょう」 「そんなことできるか!」 クリストファーは柳眉をあげる。 本部のテントの外では兵の戸惑う声が聞こえる。戦慣れしていない寄せ集めの兵はあまりの事態に逃げ出している。 「でも、勝てる方法がありません。こちらは武器も尽きているし兵の疲労もたまっています。」 「そこをなんとか考えろよ… うわぁっ!」 突然、パチパチという音とともにテントが赤く染まる。テントの布に火の矢が当たったようだ。 慌てて外にでたクリストファーは陣地に火のついた矢を射られていることを知る。 「みな、テントの外に出ろ!ここから離れろ!」 クリストファーの指示にテントの外のものも一斉に走り出す。 テントのほど近いところに川が流れている。それを知っている兵はこぞって走り出す。 「押すな!」「お前こそ」 「お母さん、お父さん!」 悲痛な叫び声が聞こえる。 「待ちなさい、それでは敵の思うつぼです。対岸で敵は待っています。山のほうへ逃げるのです!」 セオドアは叫ぶが、皆聞く耳を持たない。色白で華奢なセオドアの声は小さい。パニックの状態で余計声など届くわけがなかった。 「逆方向と言っているだろうが!」 「うるせぇ、ガキに指図されたくねぇ!」 逃げながら捨て台詞を吐く人々にクリストファーはあっけにとられていた。 川へ飛び込む群衆を慌ててセオドアとクリストファーが追いかける。予想通り、対岸には敵が一文字の隊形をとり待ち構えているのが見える。 人々は絶えず落ちてくる矢に慌てふためき前が見えていない。 「下がれ!退却!」 だが、届かない声にクリストファーは肩を落とした。もはやこれまでか… その時、地響きのような馬の足音がした。
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