セオドア・マクラーレン

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少年は自分の親も本当の名前も誕生日も知らない。物心あった時にはすでにパールズベイの地下スラムで暮らしていた。 人々の目線は冷たい。その原因は自分の見た目にあることは分かっていた。 全身のメラニン色素が欠乏する病気に少年は侵されていた。初めてその姿をみた人はその白さ、目の赤さ、糸のような髪にぎょっと驚く。 少年には日の光は強すぎて昼間は外にもでられない。そんな姿を幽霊だ、お化けだと人々は気味悪がった。 肩に衝撃がはしり、ひんやりとした感覚が全身に広がる。バケツを手に持った男がにらみつけてきた。 「…っ」 冷たさに息が詰まる。 「俺の前をふらふらするな、病気が移るだろうが、気持ち悪い」 この街では感情が空っぽになる。空腹で痩せた身体をひきずり、少年は人目につかない岩場に腰を下ろした。 握りしめていた、残飯を口にいれる。水を含んだそれは味がしなかった。 頬を伝うのはかけられた水だろうか。まだ自分は泣けるほど元気があるのだろうか。 少年の唯一の楽しみは夜街へこっそり出て捨てられていた本を読むことであった。文字なんて習ったこともないが辞書や図鑑をなんども繰り返して読むうちに覚えていった。 最近、街の教会の近くによく本が捨てられている。またそこに行ってみようと少年はぼんやり思った。そう思えば少し力が湧いてきた。
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