セオドア・マクラーレン

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「もう覚えているの…!」 ダニーは驚きの声をあげた。 「1度読んだ本ぐらい全部記憶できますが…」 少年は不思議に思った。その節が福音書の何章に書いてあるか、そのページですら鮮明に思い出せる。 「みなと同じで」 「クリスもそうなの?」 クリスはくびをぶんぶんとふる。 ほっとダニーは安堵の息をつきつぶやいた。 「すごいわ、ねえ…っ!」 顔を輝かせてダニーは少年の腕をつかんだ。その腕は枯葉のように細く、太陽にあたってしまった部分は皮が向けボロボロになっている。それに気がつきダニーははっと息を飲む。 少年は急いで腕を引っ込めようとしたが、ダニーは素早く少年を覆うボロ布をとりさった。 人目につかないところ、全身にたくさんの傷口と火傷跡があった。 下着にはタバコを押し付けられたような焦げ跡が無数にあった。 「やめてください」 少年は布を奪い返そうとするもダニーに抑えられる。 年下の少女に腕を掴まれて抵抗できないぐらいに少年の体力は落ちていた。 掴まれた腕がちりりと切なく痛んだ。 「なんなの、これ…」 「不快なものをお見せして申し訳ないです、気味が悪いでしょう」 ダニーは冷え切った声でつぶやく。 「本当に不快よ」 さっと血の気が引いた。手先が冷たくなり足元がぐらつく。 自分を受け入れてくれるかもしれない、そんなわずかな期待感が急速にしぼんでいく。 怒りで天使の声は震え、ぎゅっと唇を噛んでうつむく。 やはり、自分にとっての天国などなかったのか。少年は絶望の淵に立たされた。 同時にこんなに不愉快な気分にさせてしまい、申し訳ない気持ちと、期待した自分を恥ずかしく思う気持ちが芽生え始めた。 複雑で説明のしようのない考えがぐるぐるとめぐる。 その時だった。 「罪のない人を理由なくこんなに迫害するなんて本当に不愉快!」 今、なんて…? 少年は耳を疑った。
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