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「よかった、間に合った」
知らない間にジャングルのような地域に入っていた。直は、古い倉庫のような建物に入っていく。俺も班長の建前、同行することにした。
森に眠る精霊たちの姿を力強いダンスとアクロバットで表現したステージ。直に声をかけられるまで、ステージが終ったことに気がつかなかった。
「すごかったね、やっぱり来てよかった」
「あ、ああ」
何か気のきいた感想を言いたかったのだが、ただ曖昧な相槌をうつのが精一杯だった。
「次まで少し時間があるんだ。ちょっとお店に寄っていいかな」
イタリアの港町を切り抜いてきたようなハーバー。その端にその店はあった。ガラスで作られた工芸品の数々。ちょうどやっていた職人の実演を直は食い入るように見つめている。
「すごいなあ。この人の手から生まれてくるんだ」
小さい頃、じいちゃんがその辺の流木にニスを塗って磨いていたのを思いだした。ばあちゃんはまたごみが増えるといって嘆いていたけれど、俺にはわかった。何かを作ること、その行為に対する衝動。
店をでて、アメリカの港町風のエリアへ歩き出す。アメリカの古い街並み。行ったことはないが、映画で見たことがある。「雨に唄えば」のメロディー。
「ミュージカル、好きなの?」
直が目を輝かせる。不覚にも口ずさんでしまったらしい。
「じゃ、やっぱり一緒に観よう」
アメリカの町並みの中にとけ込むシアターに二人の男子高校生が並んで入場し、今にも踊りだしそうな様子ででてくる。周りの人から見れば異様だろう。ジャズの演奏も、タップも、劇場の雰囲気も最高だった。ジャズの余韻を頭に響かせながら外に出ると、少し薄暗くなっていた。
白い船体に青と赤の煙突。ライトアップされた豪華客船でのディナーを楽しむ人々を尻目に、ヨットの見えるほうへ歩く。橋を渡り、しばらく歩くと小さな漁村が見えてきた。
「腹、減ったな」
スナックを売るワゴンの前で空腹であることに気がついた。
「おっ肉まんだ、食べる?」
直はワゴンにかけより、あっという間に二人分のオシャレな浮き輪の形をした肉まんを調達してきた。この先の灯台のベンチで食べることにした。
港は光であふれている。俺と直の先に広がる海はどこまでも暗い。直は、ふわふわの浮き輪を口へ運ぶその手を止めた。
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