―侑の場合―

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「僕ね、卒業したらニューヨークに行くよ」 「えっ?」 「ダンスやりたい」 「大学は、行かないのか。もったいないな、お前、我が校のホープだぞ」 「なんで?やりたいことがあるのに、しないほうがもったいないよ」 「もう学校にも話してあるんだ」 「そうか」  バスの中は久々の行楽ではじけた同級生が興奮さめやらぬ様子で騒いでいる。おみやげをみせびらかす女子たち。顔を寄せ合いシャッターを押すカップル。我が班の班員たちも無事だ。千広は妹たちへの貢物をすでに宅急便で送ったらしいし、智季は疲れた表情でキャラクターの耳をつけたまま集合場所へ現れた。健太・寛太に関しては、絶叫マシンで落ちる瞬間に何度も数学の問題を解こうとしたが無理だった、などと言っていた。 東京のホテルへ向かうバスの窓の外に花火があがる。テーマパーク恒例の巨大花火イベントが始まったようだ。隣に座る直の少年のような顔が窓ガラスに映った。じっとバスの外に続く暗い道路を見つめている。 ――やりたいことがあるのに、しないほうがもったいないよ。 「そうだな」 俺はつぶやいて、目を閉じた。
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