―侑の場合―

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―侑の場合―

「わかったか。今一時半だから、六時間半後だな。駐車場のこのバスの前に集合。くれぐれも言っておくが、班行動だからな。班のやつらにも言っておけよ」  千葉の大型テーマパークの駐車場に、担任の声が響く。全く、何で修学旅行でこんな有名テーマパークなんだ。そして、なんで俺は班長なんだ。侑はチョキを出した自分の右手を恨んだ。  巨大な地球のモニュメントがゆっくりとまわっている。 「と、いうことで、班行動を守らないといけないんだけど……」 「俺、一抜けた。忙しいんだ、母ちゃんと妹にみやげ頼まれてんの。なんでも新しいキャラクターのグッズらしいんだけど、そんなわけで、よろしく」  千広は地図とおみやげのリストを手に、班員を残して歩き出した。 「俺も。すまん、侑。三組の有希子と約束してんだ。おっとやばい、急がないと」  腕時計を大げさに見て、智季は待ち合わせ場所と思われるヨーロッパのおそらくイタリアの港町を模したエリアへ駆けだした。 「あのう、言いにくいんだけどさ、俺ら今日の100m急降下の絶叫マシンのためにはるばる関東まで来たようなもんなんだよな、それでさ、なあ、健太」 「なあ、寛太」  最近人気の双子のお笑い芸人を思わせる、仲良し二人組の健太と寛太だ。 「行けよ」  俺はいよいよ馬鹿馬鹿しくなってきた。 「恩にきるよ、班長様」  頭を下げながら走っていく二人を見送りながら、俺は途方に暮れた。班員は六名。残ったのは俺と、直。どうしろってんだ、男二人。しかも、直と。 「ちょっと急いでるんだけど、侑、どうする?一緒に来る?」 「あ、ああ。一応班長だからな」  早足で歩く直の後を追う。何を考えてるんだろう。今度の期末で直について述べろという問題があったら迷わずこう書く。「優等生」。塾なんかの全国模試だとトップ二十番に入っているらしい。授業中の態度もまじめ、寝ている俺の横で必死にノートをとっている。一番不快感を覚えるのが、英語の時間。やたらネイティブ的発音を心掛けているようでうっとおしい。外国人講師のマイクに、エクセレントナオ、なんて言われている。
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