ー千広の場合ー

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寒さのためか麻木さんの白い頬はほんの少し赤みがかっている。肩までの髪はマフラーの中におさまり、きれいな曲線を描いている。彼女とは、K大模試でよく会う。といっても話したことはなく、名字の関係上、試験会場で隣に座ることが多いというだけだ。休憩時間に自動販売機のそばで友達と話す彼女を遠目に見たり、廊下ですれちがったり、たまに目が合っても気まずくてそらしてしまう程度の顔見知り。 「あの、朝倉くんは、班行動じゃないの?」 「みやげの調達に忙しくて、班でなんて動いてられなくてさ」  それも、嘘ではない。実際、妹君への貢物を買うために走りまわっている。 「朝倉くんさえよかったら、なんだけど。そのおみやげ探し手伝うから、一緒にうちの班の人探してもらえないかな」 「え、ああ、あの」  何か言おうとしたときには、すでに麻木さんは置いてあったおみやげリストを手にとっていた。 「じゃ、とりあえず、おみやげショップを手当たり次第に探そうよ」  おみやげショップでは、彼女はますます元気だった。いろいろな種類の耳を試着してみたり、耳つきのマグカップに目を輝かせてみたり、巨大なキャラクターのぬいぐるみを抱き上げたり。そうこうして、おみやげリストには購入済のチェックがつき、あと一品で完了である。 「にしても、麻木さんの友達、どこ行ったんだろうね。こんなにうろうろしても見つからないなんてさ」  おみやげのビニール袋を両手にぶらさげ、アンバランスな体勢でリストを制服のジャケットのポケットに入れる。 「そうだね。あ、あそこコーヒー売ってる。あと一品はあとにして、ちょっと一休みしない?」  みやげものの中からぬいぐるみを取り出し、リストと照らし合わせている間に麻木さんはコーヒーを持って戻ってきた。 「朝倉くんはさ、どうしてK大なの?」 「私はわからないの。自分が何をしたいのか。見えないっていうか、イメージできない」  下を向く麻木さんの髪がその白くてきめの細かい頬にかかる。 「わからないよ、俺も」 「そっか。じゃ一緒だね」  麻木さんは、ほっとした様子でコーヒーに口をつけた。
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