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こうして顔が少し丸いガキ大将の平井君は顔が細い、運動が得意な河野君とスマスマをすることにし、五年二組はまた楽しげな通常の空間に戻ったわけである。
しかし、ペレの心はそんな空気をよそに、ある問題に傾いていた。
俺は何かを忘れている。
何かとても大切で、そして重大なことを。
その事に気付いていながらも、どうすることもできない。
その事が今最もペレを悩ませているのであった。
「井上先生!」ふいに呼ばれ、ペレは振り返った。
声を聞いた瞬間、嫌な予感はしていた。
「外で警察の方がお話を伺いたいと仰ってますよ。」
つんと鼻にくる汗とタバコの匂い、黄ばんだシャツ、数少ない毛の合間にところどころ見えるフケ、年季の入った茶色くてつるの少し曲ったメガネ、そしてその奥で光る冷たく軽蔑に満ちた嫌らしい小さな目。
何をとってもペレはこの松田教頭という男を好きになる事は出来なかった。
もっとも、それは向こうも同じだろうが。
「わかりました、すぐに行きます。」
ペレは平淡に言った。
だがそれが気に食わなかったのだろうか、松田教頭は嫌味ったらしくこう言った。
「くれぐれも失礼のないようにしてくださいよ、井上先生はただでさえ…」
彼はそう言いかけ、ペレの頭から爪先までをまるで汚物を見ているかのような目つきをして見た。
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