再会

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 俺は今まで歩いた道を引き返した。  文房具屋の中にいるはずの、店主のおばあちゃんを探す。 「おばあちゃん。いる?」  反応は、無い。 「お邪魔します。」とレジの奥、住居へと入る。  だが、やはり誰もいなかった。  生活している空気も無い。  家具やらはそのまま置いてあるが、人がいたと言う温かさや、匂いがまるでないのだ。  俺は嫌な予感がして、さらに引き返した。  だが、映画館も、無人。  チケット売り場にも、どこにも誰もいない。  俺は思った。  そもそもがおかしかったのだ。  バスの乗客が俺一人だったのはなんでだ?  俺は運転手の顔も見てない。  降りる時も自然に降りてしまった。  果たして、あのバスに運転手はいたのか? 「なんだよ、これ? 本当に誰もいないのかよ? 俺一人なのかよ。」 (いるよ。ここに。)  誰かの声が聞こえた気がした。  女の子の、声。  顔を見上げると、映画館の通路の奥に人影が見えた。 「ま、待ってくれ。」  俺は人影を追った。  息を切らせ、廊下の床を蹴り、走った。 『私だよ。ほら、捕まえてよ、シュウちゃん。』  シュウちゃん?  通路を抜け、非常階段を下りて行く。  金属製の階段を下りる二人分の足音が響く。  ……シュウちゃんと言う呼び名に聞き覚えがあった。  誰だ?  この呼び方で俺を呼んでいたのは、誰だ?  俺は混乱する心で階段を降り、出口の扉を開ける。  そして、その瞬間、俺は思い出した。  彼女だ……  風が踊る。  白いワンピースが視界に映る。  スカートが揺れる。  脳髄が疼いた。  そうだ。彼女だ。  だが、彼女は……  彼女は死んだはずだ。
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