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俺は立ち止まる。
そして、俺は思い出した。
無人の街。死んだはずの彼女。
そうだ。ここは、現実じゃない。
ゆっくりと座り込んだ俺の頬を、柔らかい空気の層が撫でる。
『仮想世界』
信一が設立したコンピューターの会社。
その技術が作り出した、コンピューター上に造られた、現実そっくりの世界。
この地面も、建物も、空気も、そこにあると感じているだけの、コンピューターが作り出して、俺の脳に錯覚させている幻だ。
俺は昔なじみの信一に呼ばれた、その世界を体感する協力者。
仮想世界体感マシンのテストプレイヤーだ。
と、いつのまにか、俺のすぐそばに白いワンピースの少女がいた。
彼女の姿をした、マシンが俺の脳にいると錯覚させている、架空の少女。
『シュウちゃん? 鬼ごっこはもうおしまい?』
この子は、俺がデザインした女の子だ。
仮想都市体感型恋愛シミュレーション、空想少女CHI-3型。
俺は全てを思い出した。
ここは、あの頃の街だ。
現実世界の映画館はとっくに潰れて、パチンコ屋になった。
文房具屋のおばあちゃんは死んで、お店はずっとシャッターが閉まっている廃屋だ。
信一と、あの子と鬼ごっこした工場跡は、とっくに取り壊され、更地になってしまっている。
『シュウちゃん?』
ここは、あの子と信一と、三人で過ごした思い出の街だった。
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