再会

4/10
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
 俺は立ち止まる。  そして、俺は思い出した。  無人の街。死んだはずの彼女。  そうだ。ここは、現実じゃない。  ゆっくりと座り込んだ俺の頬を、柔らかい空気の層が撫でる。 『仮想世界』  信一が設立したコンピューターの会社。  その技術が作り出した、コンピューター上に造られた、現実そっくりの世界。  この地面も、建物も、空気も、そこにあると感じているだけの、コンピューターが作り出して、俺の脳に錯覚させている幻だ。  俺は昔なじみの信一に呼ばれた、その世界を体感する協力者。  仮想世界体感マシンのテストプレイヤーだ。  と、いつのまにか、俺のすぐそばに白いワンピースの少女がいた。  彼女の姿をした、マシンが俺の脳にいると錯覚させている、架空の少女。 『シュウちゃん? 鬼ごっこはもうおしまい?』  この子は、俺がデザインした女の子だ。  仮想都市体感型恋愛シミュレーション、空想少女CHI-3型。  俺は全てを思い出した。  ここは、あの頃の街だ。  現実世界の映画館はとっくに潰れて、パチンコ屋になった。  文房具屋のおばあちゃんは死んで、お店はずっとシャッターが閉まっている廃屋だ。  信一と、あの子と鬼ごっこした工場跡は、とっくに取り壊され、更地になってしまっている。 『シュウちゃん?』  ここは、あの子と信一と、三人で過ごした思い出の街だった。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!