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何かが割れる音がした。
それが合図のように空が崩れ始めたのだ。
まるで結合していた組織が崩壊するかのように。
いや、違う。これは錯覚だ。
俺は、意識をはっきりとさせて空を見た。
崩れているのは、空の色だった。
ひび割れのように、稲妻のように、いくつもの線が刻まれ、異なる色が滲み、波紋を広げていく。
何がおきているのかは分からないが、少なくとも俺にはそう見えた。
『シュウ。バグだ。実験中止だ。』
信一の声が空から聞こえてきた。
緊急性。危険。彼の声にはただならぬ事態が起きたことを示す色があった。
「バグ?」
『一度リセットして、プログラムを組みなおさなければならない。一度こっちに戻れ。戻り方は教えただろ? 現実のことを強く思うんだ。』
俺は信一の言葉を聞きながら思った。
(現実のことを、強く、思う。)
その時、CHI-3が俺の手を強く握った。
『怖い。シュウちゃん。』
先ほどの信一の声が甦る。
(一度リセットするんだ。)
リセット。
消去してプログラムを組みなおす。
だが、そうしたら、今俺の手を震えながら握っているこのCHI-3はどうなるのだろうか。
リセットする。リセット。
消去。
消える。彼女が、もう一度。
「信一、ダメだ。俺はそっちには戻らない。」
『何言ってるんだ。その世界が崩壊したら、接続してる人間がどうなるか人体実験でもするつもりか? 危険だ。戻れ。』
俺はCHI-3の手を握った。
「残るよ。もう二度と彼女を失いたくない。」
だが、残るよと言う言葉の途中で手の中の彼女が変わった。
握り返す力が消え、残ったのは意思のない体温だけだった。
『私は空想少女。仮想世界の住人CHI-3型です。』
無表情。まるで魂が抜けて、感情が抜けてしまったような声の色が空気を震わせていた。
作り物の少女。
ああ、そうだ、と俺は思った。
この子は、サワちゃんじゃない。
作り物だ。
『シュウ、急げ。後はお前だけだ! 建物までおかしくなってきている。いつ世界が崩壊してもおかしくない。』
その時、突然、俺の周囲にCHI-3が何人も出現した。
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