再会

7/10
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
 何かが割れる音がした。  それが合図のように空が崩れ始めたのだ。  まるで結合していた組織が崩壊するかのように。  いや、違う。これは錯覚だ。  俺は、意識をはっきりとさせて空を見た。  崩れているのは、空の色だった。  ひび割れのように、稲妻のように、いくつもの線が刻まれ、異なる色が滲み、波紋を広げていく。  何がおきているのかは分からないが、少なくとも俺にはそう見えた。 『シュウ。バグだ。実験中止だ。』  信一の声が空から聞こえてきた。  緊急性。危険。彼の声にはただならぬ事態が起きたことを示す色があった。 「バグ?」 『一度リセットして、プログラムを組みなおさなければならない。一度こっちに戻れ。戻り方は教えただろ? 現実のことを強く思うんだ。』  俺は信一の言葉を聞きながら思った。 (現実のことを、強く、思う。)  その時、CHI-3が俺の手を強く握った。 『怖い。シュウちゃん。』  先ほどの信一の声が甦る。 (一度リセットするんだ。)  リセット。  消去してプログラムを組みなおす。  だが、そうしたら、今俺の手を震えながら握っているこのCHI-3はどうなるのだろうか。  リセットする。リセット。  消去。  消える。彼女が、もう一度。 「信一、ダメだ。俺はそっちには戻らない。」 『何言ってるんだ。その世界が崩壊したら、接続してる人間がどうなるか人体実験でもするつもりか? 危険だ。戻れ。』  俺はCHI-3の手を握った。 「残るよ。もう二度と彼女を失いたくない。」  だが、残るよと言う言葉の途中で手の中の彼女が変わった。  握り返す力が消え、残ったのは意思のない体温だけだった。 『私は空想少女。仮想世界の住人CHI-3型です。』  無表情。まるで魂が抜けて、感情が抜けてしまったような声の色が空気を震わせていた。  作り物の少女。  ああ、そうだ、と俺は思った。  この子は、サワちゃんじゃない。  作り物だ。 『シュウ、急げ。後はお前だけだ! 建物までおかしくなってきている。いつ世界が崩壊してもおかしくない。』  その時、突然、俺の周囲にCHI-3が何人も出現した。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!