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『ワタ、私は、私、ワ、私を、私は、仮想世界の住人CHI-3型です。それ、それでも愛してくれますか?』
混乱する世界。恐ろしいバグ。
景色にノイズが走っている。
ああ、でも、それでも、と、俺は思った。
『愛してくれますか?』
サワちゃんの形をした彼女達と一緒に消えるのも悪くない。
ああ、それでも良い。
もう、現実の世界なんて、意味が無い。生きていたくない。
サワちゃんが、いない世界なんて……
そう思っている最中にも、思い出の景色はどんどん変わって行く。
ザラザラとした空気の層が俺の周囲を取り囲み、彼女との思い出の場所も、彼女の顔も、声も、何もかもが破壊されていく。
だが、そもそも、現実世界にそれらは何一つ残っていないのだ。
ここで死のうと、そう思った。死ねるかは分からないが。
だがその時、一人のCHI-3が俺に近寄り、俺の胸に指でそっと触れた。
『ダメです。生きなきゃダメ。私を愛してるなら、生きて、あなたは。』
……
それは奇跡だった。
脳に見せられた錯覚。
こんなバグとトラブルが起きた時のプログラムなど、開発者が想定して組む物だろうか。
信一なら? いや、それも無い。
だとしたら、彼女のこの言葉は何なのだろう?
何なのだろうか、俺の、この頬を伝い、流れる雫は。
俺は少女を見た。
彼女達の輪郭にノイズが走り、姿が崩れていく。
死。プログラムの破壊。
『早く、行って。あナ、あなたを愛してるから、一緒にシ、死なせたくない。生きて。』
彼女達の中に死の概念がしっかりとあるのを感じる言葉だった。
確実なる死が、彼女達の未来にある。すぐそばに。
俺はその言葉を聴いて恥ずかしくなった。
生を投げ出した自分に。現実世界に。
生きることで消えて行く思い出の。忘れると言う苦しみから逃げようとしていた自分に。
今、あの子の姿をした彼女達の意思が俺を包んでいる。
(生きねば。)
俺は強く思った。
生きたい。生きていたい、と。
……
…………
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