手紙

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彼女も、病院にかかっているのだと私に話したが、嬉しそうに自分の事を語る様子は、どう見たって病人には見えない。 もしかしたら心療内科系の病かも知れないと思ったけど、そんな事は勿論、口に出しては言えなかった。 話しは続き、彼女は担当医が大好きなの、と私に打ち明けて来た。 えっ、今日初めて一緒にお茶しただけの人に急にそんな事を言われても‥と返事に困っていると、「それで気持ちを抑えられなくて診察中に先生に手紙を渡してしまったの」とまで言い出すので私は思わず「エエッ!?」と大声で聞き返した。 「手紙に何て書いたのですか?」 「私はこんなに先生の事が好きなのに、先生は私の気持ちを理解してくれなくって冷たいって‥」 「‥‥。」 私は彼女の顔をまじまじと見返した。 身綺麗にしているとは言っても中年女の患者。 そんな女性にラブレターを貰った医者はどんな気持ちがするのだろうか。 私は会った事も無い彼女の担当医に同情した。 受け持ち患者から、「愛の告白」をされたら、医師だって困るだろう。 でも、白衣マジックとも言って、医者はモテるから患者からのラブレターなんて慣れっこになっているのかも‥ 黙り込んだ私に構わず、彼女は 続けた。 「ねぇ、貴女には好きな人はいないの? 私の相談相手になって欲しいの」
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