記録

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意識が戻った日から10日が過ぎた。 とはいうものの、その時間の経過を私が自覚していたわけではない。 日々は夢うつつに過ぎ、気がつけば私はベッドの上に起き上がれるようになっていた。 担当医は、体力的には話すのは差し支えないと保証した。 車椅子に乗せられ、私は小さな部屋へと運ばれた。 窓もなく、片隅に3Dプロジェクターがひっそりと置かれただけの、小さな会議室。 簡素な机を挟んで、目の前には二人の男性が座っていた。 見覚えのある担当医と、もう一人は保険会社の代理人である弁護士だと名乗った。 医師は、私の体が、現在どのような状態にあるのか教えてくれた。 弁護士は、私が加入した保険で、生涯不自由なく暮らすことが出来ると教えてくれた。 生涯…… それは、あとどれだけ残されていると言うのだろう。 たんたんと続く二人の話を、私は無表情で聞いていたらしい。 「大丈夫ですか?」 尋ねられ、私は医師の顔を見た。 そして弁護士の顔も。 被害妄想……? 彼らの顔には、この時間を早く終わらせてしまいたいと言う感情が滲み出ているような気がしてならなかった。 「平気です……」 ああ……でも、そうじゃない。 熱を欠いた自分の言葉で、私は気がつく。 私が、早く終わらせてしまいたいだけ。 「お話は分かりました」 私は、次に言う言葉を探す。 けれど、何を言っても同じ意味にしかならない。 「私の病気は治らないんですね」 受け入れるしかない。 そんなことは百年前から分かっていたような気がする。 「余命は、どのくらいなんですか」 「延命をすれば……」 「延命はしません」 私は医師の言葉を遮った。 「……では、半年以内とお考えください」 半年…… 長いけれど、我慢できないほどではないだろう。 俯いた私に医師と弁護士は黙り込んだ。 平均寿命からすれば、17歳の人間に余命宣告するのは、彼らだって嫌だったろう。 でも、きっと、彼らが思うほど私は辛くない。 終わりが見えたことで、解放されたような気さえする。
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