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中学二年の三月に振られた。幼馴染みの兄だった。反動なのか知らないが、中学卒業までの一年、女と付き合っては別れを繰り返した。自分から告白したことはない。高校生になったところで心を入れかえるはずもなく。幼馴染みとは中学に続いて同じ学校に進学し、同じクラスで部活動も同じだ。面倒くさくなって幽霊部員化しつつあるが、幼馴染みとの関係は変わってないと思う。幼馴染みとその兄とは、垂れ目気味か吊り目気味かということ以外は、よく似た容姿をしていた。性格は似ているようで、多分違っている。不実で堕落した行動を続ける自分に、幼馴染みは諭しもしないし怒りもしない。次々代わっていく女たちを同情の眼差しで見送るだけだ。子どもの頃から、辛いとき、嬉しいとき、寂しいとき、楽しいとき、悔しいとき、何ということはないという穏やかな顔をして、傍らにいた。雨の降る日に二度、戯れに唇を重ねたことがある。幼馴染みの怒った顔を見ることができたという傲慢な達成感と同時に、奇妙な感情に支配されて戸惑った。けれど、以後も何ということはない顔。告白してしまえよ、早く。倒置法。教えてやらなければならない。幼馴染みが書いた文章を盗み見たことも白状しなければならないが。誘惑に勝てる者がいるだろうか。いや、いるまい。使い方を間違えている。十三月が家の窓から見える時分に、携帯端末の呼び出し音が鳴った。起きてるか? 起きてるよ。自室の部屋の窓の隣に明かりの灯る部屋の窓がある。子どもの頃、幼馴染みは夜更けによく窓から窓へ、こちらにやって来た。今は互いに顔を見ることなく、延々と他愛のない馬鹿な話をするばかりだ。
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