記憶

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過去に一度だけ、ホームレスを取材したことあったなぁ。 想像以上に臭いがキツくて大変だったのを覚えている。 ”ホームレスは何故ホームレスになったのか” 少し興味があって、でも自分では聞けない。 …売れると思ったんだけどな。 一番印象に残っているのは駅近くの公園で暮らしていたホームレス。 確か、50代半ばくらいだったかな。 多くのホームレスが取材を嫌がる中、快諾してくれた。 ホームレスになった理由は単純。 定職に就くことが出来ず、貯金も底を尽きた。 話を聞いていくと、昔は小さな工場を経営していたらしい。 結婚し、子どもが生まれ順調な人生。 だけど、生産していた商品に重大な欠陥がみつかった。 人体に害を及ぼす様な欠陥… そこから堕ちていくのは簡単だ。 世間から酷いバッシングを受けて工場は破綻。 近隣からは疎外され、家にも嫌がらせをされていたそうだ。 元凶は自分にあると考えたその人は、妻と子どもの引越しを終えると一切の関係を絶った。 ただただ、謝りたい。 涙ながらに語ってくれた、その人の気持ちを記事にしてやりたかった。 俺に力があればなぁ。 確か、ホームレスの名前は…中田… ”発見された遺体の身元は、住所不定 無職の中田健二さん53歳と判明しました。” 「…なッ!?」 BGMの様に流れていたニュースは、俺が出会ったホームレスの名前を告げていた。
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