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すっかり話に夢中になっていたが、目の前には頼んでいたケーキが並んでいる。
「食べようか。」
「うん。甘いの平気なの?」
俺は甘党だ。
頼んだケーキもクリームがたっぷりのショートケーキ。
「むしろ好物だね。」
ショートケーキの食べ方にはこだわりがある。
イチゴは必ず最後に!
たまに、イチゴを最後に食べると酸っぱいから嫌。
なんて奴がいるが、それは違う。
甘くなった口の中を最後にイチゴの酸味で締めるのが最高なんだ。
「イチゴは最初よね。」
同じくショートケーキを頼んでいた結衣は、そう言いながらイチゴをヒョイと食べた。
「な!?あ~あ。分かってないなぁ。」
「ふふ。イチゴは最後派なのね。ごめんなさい。」
ふて腐れる俺を笑いながらなだめる。
「クリーム、付いてるわよ。」
そう言うと結衣は指で俺の口元を拭いた。
その瞬間、唇に結衣の指が触れる。
あれ?
まただ。
懐かしいような感覚…
「…なんか懐かしい。」
「え?」
「俺さ、昔好きだった人がいて、その子が結衣さんに似ている気がするんだ。」
こんな事、話すつもりなかったのにな。
「そう…何て名前の人なの?」
「名前は…あれ?なんだったかな…」
「名前も覚えていないなんて、それほど好きじゃなかったのね。」
「違う!!」
気付いた時にはテーブルを叩き大声で叫んでいた。
我に返りすぐに訂正する。
「あ、いや…ごめん、そうかも。」
「………。」
結衣は驚いたのか、黙ったまま俺を見ていた。
何故だろう。
名前が思い出せない。
「…そろそろ行きましょうか。」
少しの沈黙の後、結衣が口を開いた。
なんだか空気を重くしてしまったな。
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