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「あれ、遠廟さんなんか変わった?
この前は一緒にすごーく喜んでくれたのに。
ほら、ドロロの、のーずいーだよ?
憎いのが死んだんだよ?」
17歳のまま止まってしまった覚子ちゃんが不思議そうに首をかしげた。私はその姿があろうことか哀れに見えてしまった。
それが私の中の忘れてたものをぶっ壊した。
「あ、ああ。」
あの頃は、初めて友達が出来て、それが異常で、でも可愛くて、もっと自分を、私もおかしいんだよって、仲間だよって言いたかっただけなのに。それで空気みたいな私をなんとか保てたのに。
「いやああ…、いやだ。」
今は、段々と大人になってきて、なんで異常がダメか、どういうのが優しさか、何が自分かを卒業式のあの日にわかってしまった。
私はすでに狂気を卒業してしまっていたのだ。
だから、あの覚子ちゃんの殺した人にも大切な人がいたのかも、大好きなバンドがあったかもって考えてしまう。
継ぐかもしれない家業があったかも、いきたい大学があったかもって。
「遠廟さん?」
もう二度とそんな機会がこない覚子ちゃんが私を仲間だとまだ思って心配そうに見つめる。
「あ、あああ。」
怖くて足が震えだす。
前まで普通だった嫌いな人を殺すことが理解できない。
今向き合わなきゃいけない。
でもそれを代弁してくれたり、解決法を示してくれるバンドはもうなかった。
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