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私は職員室のドアをノックして滑りの悪い引き戸を開いた。
「失礼します」
中田の机に行くと黒ぶちメガネの三十路に入った位の男はテストの採点をしていた。
「お仕事中失礼します。先生、これを各教室に配布したら良いですか?」
中田の机の上の図書便りを取り、私は優等生の様に丁寧に問いかけた。
「あぁ。藤島か。いつも雑用を頼んで悪いな」
黒ぶちメガネの奥の瞳が優しく弧を描く。
『ホントだよ。いつもいつも。愛想笑いでごまかしてるんじゃないよ』
私は心で毒を吐く。
「いえ。何でも気軽に言って下さい」
心とは正反対の優しい言葉と中田に負けない愛想笑いを浮かべた私は、図書便りを両手に抱え職員室を出た。
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