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だけど彼はすぐに前を向いて歩き始める。
(――――なに、なんなの…)
心を空にしたい
これ以上、この人に心を見せる訳にも
引き摺られる訳にもいかないから
それなのに――――
(…しっかりしろ、私…、
この人は一夜だけのお客よ )
心の中で強く言い聞かせてかぶりを振ると、
煌々とした路地の少し先で
彼がこちらを振り返ったのが見えた。
(―――行かなきゃ、)
ヒールが鳴る。
隣に並ぶと、私はその腕に自分の手を絡ませた。
それはまるで
ここを初めて二人で歩いた時のようで
(――――もう…っ )
顔を出そうとする苦い記憶を
無理矢理押し込めた時、
彼は私を横目にふっと笑みを漏らした。
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