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――――良かった
まさに ”田舎の学生” だった昔の私は、
もういない
( 私も…あなたが誰だか判らないけど )
そう思いつつ心の中で呟いた時、
「もう皆先に乗ってるから、これをあそこで渡してね
二階のバンケットが会場だから」
あそこ、とタラップの先を指差され、
その子にもう一度お礼を言って足を向けた。
船内の螺旋階段を上がりながら
ドクドクと音を立て出す心音に、
( しっかりしろ、私… )
そう内心叱咤する。
田舎を捨てて10年
故意に忘れようとした努力のお蔭で
だれの顔も、名前も殆んど思い出せない
仲の良かった子だっていたのに
(…一度も連絡しなかった私の事なんて、きっと忘れてるわね )
ふっと、仄かな苦い笑いが浮かんだ。
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