決戦の土曜日

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――――良かった まさに ”田舎の学生” だった昔の私は、 もういない ( 私も…あなたが誰だか判らないけど ) そう思いつつ心の中で呟いた時、 「もう皆先に乗ってるから、これをあそこで渡してね  二階のバンケットが会場だから」 あそこ、とタラップの先を指差され、 その子にもう一度お礼を言って足を向けた。 船内の螺旋階段を上がりながら ドクドクと音を立て出す心音に、 ( しっかりしろ、私… ) そう内心叱咤する。 田舎を捨てて10年 故意に忘れようとした努力のお蔭で だれの顔も、名前も殆んど思い出せない 仲の良かった子だっていたのに (…一度も連絡しなかった私の事なんて、きっと忘れてるわね ) ふっと、仄かな苦い笑いが浮かんだ。
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