決戦の土曜日 #2

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「…ありがとう」 動機を逃がして顔を上げようとした時、 「小川さん、そのカクテルなに?  私もそれにしようかな 」 「今野ー、  お前一人でローストビーフ取り過ぎなんだよ」 私たちのテーブルに同じクラスだった子達が集まる。 途端に賑やかになる空気に内心胸を撫で下ろした。 話し掛けてくる男も、女の子も、 殆んどの人の記憶がない だけどそんなのが無くたって、 会話合わせるくらい何でもない事で、 誰々が結婚したとか、  家を建てただとか、 そんな話に相槌を打って たまに聞かれた事に答える。  それだけで十分だった。 「ねぇ、小川さんは東京長いよね?  今はどうしてるの?」 「今は…、ローツ製薬の受付をしてるの」 「えーすごい!   私今彼氏募集中なんだけど、いい人いないかな?」 「えー、ずるい! 私も募集中なのに」 急に広がり始める女子特有のノリに、 「部署が部署だから、  男の人とはあまり会わないの」と 相手をするつもりのない私は やんわりと眉を下げてグラスを置いた。 「えー、そっかぁ」 「残念、」 口々に漏れる落胆の声が消えた頃、 船内に流れたアナウンスに自然と会話が止まった。 前方にゲートブリッジが見えてきたから デッキに上がられる方はどうぞ との内容で、 「 折角だから私、行ってくる 」 「 私もー 」 女の子達はバタバタとカメラを片手に会場を抜け始めた。
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