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「…ありがとう」
動機を逃がして顔を上げようとした時、
「小川さん、そのカクテルなに?
私もそれにしようかな 」
「今野ー、
お前一人でローストビーフ取り過ぎなんだよ」
私たちのテーブルに同じクラスだった子達が集まる。
途端に賑やかになる空気に内心胸を撫で下ろした。
話し掛けてくる男も、女の子も、
殆んどの人の記憶がない
だけどそんなのが無くたって、
会話合わせるくらい何でもない事で、
誰々が結婚したとか、
家を建てただとか、
そんな話に相槌を打って
たまに聞かれた事に答える。
それだけで十分だった。
「ねぇ、小川さんは東京長いよね?
今はどうしてるの?」
「今は…、ローツ製薬の受付をしてるの」
「えーすごい!
私今彼氏募集中なんだけど、いい人いないかな?」
「えー、ずるい! 私も募集中なのに」
急に広がり始める女子特有のノリに、
「部署が部署だから、
男の人とはあまり会わないの」と
相手をするつもりのない私は
やんわりと眉を下げてグラスを置いた。
「えー、そっかぁ」
「残念、」
口々に漏れる落胆の声が消えた頃、
船内に流れたアナウンスに自然と会話が止まった。
前方にゲートブリッジが見えてきたから
デッキに上がられる方はどうぞ との内容で、
「 折角だから私、行ってくる 」
「 私もー 」
女の子達はバタバタとカメラを片手に会場を抜け始めた。
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