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「……ここ、禁煙よ 」
紡いだ短い言葉も煙と共に流されて、
見下ろす瞳の中には私がうっすらと映る。
手首が掴まれ、薄い影がゆっくりと私を覆うと
自然と目を伏せて、
いつもと違う香りの中交わしたキスは、
苦い味がした。
触れただけの唇はすぐに離れて、
私から煙草を抜き取り、彼はもう一度口に運ぶ。
何事も無かったようなその横顔に
また胸に小さな痛みが走るけれど
それから目を逸らすように
私はそっとフェンスの向こうに視線を移した。
「送るけど、家はどこ?」
車に戻った時には
もう時刻は9時を回ろうとしていた。
「…いい、適当にどこか駅で降ろして」
心の判らないこの人に心を引き摺られてしまいそうで
早く別れなきゃ と小さく口にした私に、
「最低って言った事、
自分と怜奈、俺とピエモンテの男を重ねた?」
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