怜奈と私

33/39
前へ
/39ページ
次へ
「……ここ、禁煙よ 」 紡いだ短い言葉も煙と共に流されて、 見下ろす瞳の中には私がうっすらと映る。 手首が掴まれ、薄い影がゆっくりと私を覆うと 自然と目を伏せて、 いつもと違う香りの中交わしたキスは、 苦い味がした。 触れただけの唇はすぐに離れて、 私から煙草を抜き取り、彼はもう一度口に運ぶ。 何事も無かったようなその横顔に また胸に小さな痛みが走るけれど それから目を逸らすように 私はそっとフェンスの向こうに視線を移した。 「送るけど、家はどこ?」 車に戻った時には もう時刻は9時を回ろうとしていた。 「…いい、適当にどこか駅で降ろして」 心の判らないこの人に心を引き摺られてしまいそうで 早く別れなきゃ と小さく口にした私に、 「最低って言った事、  自分と怜奈、俺とピエモンテの男を重ねた?」
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

482人が本棚に入れています
本棚に追加