かりそめのデート

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―――ドクン と、心臓が跳ねた。 掴んでいた小さな粒は彼の口の中に消えて、 代わりに彼の唇が指先に触れた瞬間、 その感触に小さく体が震える。 固まる私の耳に映画館からのお願いが流れ始め、 スクリーンからのぼんやりとした灯りが 少し目を伏した横顔を浮かび上がらせた。 「…甘い 」 微かに離された指先に、吐息がかかる。 (―――――――――――) こうなることは予想していた筈なのに こんなにも心臓が跳ねるなんて予想外で、 それを隠そうと彼からポップコーンを抜き取ると、 気もそぞろのまま始まった映画を眺めた。 ( 本当、しっかりして、私… ) 何度目かの叱咤をしつつ、 私は一人で食べるしかなくなったポップコーンを 少しずつ口へと運んだ。
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