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「 暑…… 」
じりじりとした日差しの中、
待ち合わせに指定した郵便局に向かう。
今日は8月最後の土曜日
現在時刻は13時59分
曲がり角を曲がるとすぐに視界に映った黒の車に、
無意識に心臓が音を立てた。
そんな自分に小さくかぶりを振ると、
綺麗に口元を上げて助手席のドアを開ける。
「 こんにちは 」
「…こんにちは」
にっこりと微笑んだ私と、彼との視線が絡む
――――さぁ、ここからだ
私はそのままの笑顔で言葉を続けた。
「先に来てくれてたのね
迎えに来てくれてありがとう」
「もし待たせたら
また何か言われるかと思って」
「―――そうね、
よく判ってるじゃない 」
揶揄を含んだ物言いに少し眉を下げるけれど
私は口元は上げたたまま彼を見上げた。
彼は頬杖をついてこちらに目を向ける。
( 渡瀬 朔… この人だって……)
私もダテに男を変えて来たわけじゃない
彼が女に慣れてるのは十分に判り切ってる
いろんなデートをしてきただろうし、
そんな彼に捻ったデートを提案するのも正直難しい
(…でも、私だって……)
プライドに傷をつけられたままいられない
「―――それで、
今からどこに行くの?」
ゆっくりとハンドルを握りながら訊ねる彼に、
にっこりと微笑んで
「みなとみらい」
「…みなとみらい? 横浜?」
「そう、横浜の」
「…へぇ、」
行先を告げると、
彼は少し間を置いて視線を前へと移した。
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