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そのまま少し引いて目を伏せようとした瞬間、
その腕が急に離れて掴んだ手が空を切った。
(―――――え? )
視界の端で頂上がゆっくりと過ぎて、
彼は向かいに腰を下ろして頬杖をつく。
「席、交代するんだろ?」
「…………………………」
――――なにそれ
私は離れた指先を緩く握りしめると
貼り付けの笑みで遠くを眺めるふりをした。
だけど胸の中はぐるぐると渦巻いていて、
肩すかしをくらった気持ちになる。
煌めく夜景を瞳に映しながら
だんだんと怒りまで湧いてきて
(――――だいたい、あの雑誌が悪いのよ
キスを外した時の対処の仕方まで書いてなさいよね )
眉間にしわが寄せつつ眼下に目を落とす。
街並みがだんだんと近付いて
何となく瞼が揺れた時、
向かいから小さな笑みを含んだような息が聞こえた。
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