かりそめのデート

28/40
471人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
何か言葉を紡ぎたくても叶わなくて、 軽く胸を叩けば反対の手で緩く握られる。 頭の中は否定の言葉ばかりが流れるのに、 手を伸ばす事も振り払う事も出来なくて 動けない ただ彼に触れられた耳が熱くて 瞼の裏がぐらぐらと揺れてるような気がした。 体中が徐々に火照りだした頃、 ――――ガチャリ 急に届いたのはこの空間を割るような、硬い音 それと同時に吹き込んだ風が私を撫でて 咄嗟に瞼を開けた。 「――――――――――――――」 彼の肩越しに見えるのは酷く困った顔の係員と、 その隣にはこれに乗ろうとしてるカップル そしてその奥に並んでる人たち全員と目が合ったのは 時間にすれば、たった数秒 だけどその僅かな時間で 全身の血が一気に沸き返る。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!