かりそめのデート

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『―――――離れて…っ 』 そう叫びたいのに、 声にならい私は握られた手で彼を叩いた。 すると、頬を包んでいた彼の手が離れ、 同時にはらりと髪が流れる。 彼は私の手をほどいて立ち上がると、 係員達の傍を通り過ぎた。 「ちょ、見た!? 今の…」 「―――馬鹿、まだ中に居るって」 その場の視線が 遠ざかる彼から私へと移った時、 (―――――――――――!) いたたまれず鞄を思い切り掴むと、 一気に外に飛び出した。 同時に起こるどよめきと共に、 背中に痛いくらいの視線を感じる。 (……渡瀬 朔……っ ) ―――有り得ない 色んな熱がせめぎ合って、隣にも並べない 絶え間なく吹く風が 火照った頬を冷ましてくれそうなのに、 視界に映る彼の背中がそれをさせてくれなかった。
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