かりそめのデート

38/40

471人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
左指に触れられたのは随分と前に、一度 だけどこんな風にされるなんて不意打ちだ 「……もしクビになっても…、  あなたのところじゃ働かないわ  富士川さんに頼むからいいわよ」 ガラスに映る自分の顔は酷く歪んでいる。 「……富士川さん、か 」 少しして届いたのは何かを含んだような、静かな声 その物言いも予想外で ほんの僅かに胸が軋んだけれど、 それに気付かないふりをして遠くに目を移した。 ( やめてよね 本当に ) 引き摺られたくない ―――気まぐれにそんな風にしないで それから私は何も言わず、 ただ流れる景色を瞳に映していた。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

471人が本棚に入れています
本棚に追加