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「――――これ」
車から降りたと同時に渡されたのは
ピエモンテで忘れた私の傘だった。
現在時刻は20時14分
家近くの郵便局の前で、薄い影が二つ地面に伸びる。
「……返してくれるなら…
もっと早くが良かったわよ」
女物の傘を持ってても仕方ないだろうけど、
ペンと交換だと割り切っていたのに
返されたら何となくばつが悪い。
うろんな顔をして受け取ると、
「取りに来るのかと思ってたら、ずっと来ないから」
「…行く訳ないじゃない」
自分から会おうなんて思わない
去る者は追わないし、見込みのない人に構ってられないから
彼は微かに口元を上げると、運転席のドアを開ける。
「………………………」
ほら、また
そうやって何の約束もせず、去っていくじゃない
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