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エレベーターのドアが開くと同時に
甘い匂いが鼻をくすぐって、
映画館独特の落ち着いた照明が照らした。
土曜日のこの時間はそこそこ混んでいて、
私はスマホを片手にロビーを横切り、
発券機でチケットを取り出す。
少し後ろでその様子を眺めていた彼は、
「で、どっちを見るの?」
言いながらちらりと奥に視線を移した。
15時30分からの映画は、2つ
一つはハリウッドのSFファンタジー
もう一つはコミックが原作で、
長濱さんお勧めの人気作
( ここで拒否されるかな……)
私は小さく息を吸うと、空いた手で
「こっちが見たいの」と指差した。
私の指先の大きなポスターには
切なそうに見つめ合う男女
その下に書かれたタイトルは、
『恋色白書 ~最後の恋~』
「―――――――――――」
ざわめき混じりに
これ以上ない、大きなため息が耳に届く。
( …本当は、これが見たかったなんて嘘だけど )
今まで恋愛映画なんて見たことがないし、
恋とか愛はただの橋でしかないから興味もなかった。
だけど、
『 デートと言えば映画!
映画って言えば恋愛ものでしょう!
あと映画って言ったらコーラと―――』
長濱さんの言葉を思い出す。
(…わかった、
一度その ”鉄板” をしてみるわ )
心の中の長濱さんに返事をしつつ、
カウンターでコーラを二つと
キャラメルポップコーンを頼んだ。
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