かりそめのデート

8/40
前へ
/40ページ
次へ
エレベーターのドアが開くと同時に 甘い匂いが鼻をくすぐって、 映画館独特の落ち着いた照明が照らした。 土曜日のこの時間はそこそこ混んでいて、 私はスマホを片手にロビーを横切り、 発券機でチケットを取り出す。 少し後ろでその様子を眺めていた彼は、 「で、どっちを見るの?」 言いながらちらりと奥に視線を移した。 15時30分からの映画は、2つ 一つはハリウッドのSFファンタジー もう一つはコミックが原作で、 長濱さんお勧めの人気作 ( ここで拒否されるかな……) 私は小さく息を吸うと、空いた手で 「こっちが見たいの」と指差した。 私の指先の大きなポスターには 切なそうに見つめ合う男女 その下に書かれたタイトルは、 『恋色白書 ~最後の恋~』 「―――――――――――」 ざわめき混じりに これ以上ない、大きなため息が耳に届く。 ( …本当は、これが見たかったなんて嘘だけど ) 今まで恋愛映画なんて見たことがないし、 恋とか愛はただの橋でしかないから興味もなかった。 だけど、 『 デートと言えば映画!  映画って言えば恋愛ものでしょう!  あと映画って言ったらコーラと―――』 長濱さんの言葉を思い出す。 (…わかった、  一度その ”鉄板” をしてみるわ ) 心の中の長濱さんに返事をしつつ、 カウンターでコーラを二つと キャラメルポップコーンを頼んだ。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

471人が本棚に入れています
本棚に追加