渋い現実

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(―――もう、しっかり……) 富士川さんに集中出来ないなら これ以上は彼の話を聞くべきじゃない 話題を変えようと隣を見上げた時、 私の瞳に映る目が微かな影が浮かんでいた。 「……私はね、一度結婚していたことがあるんだ  だけど3年前に駄目になってしまってね」 静かな声が耳を通り抜ける。 心臓が音を立てて僅かに目が開いた時、 富士川さんはゆっくりと言葉を続けた。 「その人とは…  いわゆるお見合い結婚だったんだけど、  働いた経験のない人だったから  仕事ばかりしていた私と話が合わなくて…  会話が…続かなくてね  家に帰っても居場所がないような気がして、  そうなるともっと仕事ばかりになって…  溝が広がってしまった」 淡々とした物言いの中にある、寂寞の思い それが胸に流れて、私は視線を外した。
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