448人が本棚に入れています
本棚に追加
(―――もう、しっかり……)
富士川さんに集中出来ないなら
これ以上は彼の話を聞くべきじゃない
話題を変えようと隣を見上げた時、
私の瞳に映る目が微かな影が浮かんでいた。
「……私はね、一度結婚していたことがあるんだ
だけど3年前に駄目になってしまってね」
静かな声が耳を通り抜ける。
心臓が音を立てて僅かに目が開いた時、
富士川さんはゆっくりと言葉を続けた。
「その人とは…
いわゆるお見合い結婚だったんだけど、
働いた経験のない人だったから
仕事ばかりしていた私と話が合わなくて…
会話が…続かなくてね
家に帰っても居場所がないような気がして、
そうなるともっと仕事ばかりになって…
溝が広がってしまった」
淡々とした物言いの中にある、寂寞の思い
それが胸に流れて、私は視線を外した。
最初のコメントを投稿しよう!