渋い現実#2

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胸に置いた指をそっと外すと、 山梨さんは大きな笑顔を置いて踵を返す。 「じゃーな、アヤちゃん   また稲川行こうな」 「……はい、  是非ご一緒させて下さいね」 同じように笑顔を向けるけれど、 本意を掴めないまま大通りへと去る背中に頭を下げた。 後ろ姿が見えなくなると しんとした路地に冷えた風が吹き抜けて、 さっきまでの空気が変わる。 少し間を置いて彼に向き直ると、 「渡瀬様、  今日は来て下さってありがとうございました」 そう綺麗に口元を上げた。
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