冷たい理想

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(―――やっぱり ) 「…そうですか…」 私は照れたような表情を作る。 「ありがとうございます   けど……  少しだけ考えさせてくれませんか?」 「…だよね 」 富士川さんは小さく肩を竦めると、 私の目をじっと見つめた。 「…急だし、戸惑うのも無理はないけど…  今すぐにじゃなくてもいいから  前向きに考えて欲しい」 その言葉が私の耳に大きく響く。 判らない程微かに頷く私を見て、 柔らかい笑みを浮かべると、 「…ごめんね、引き留めて  送るよ」 「そんな、一人で帰られますから」 「でも…」 「大人しく寝てて下さい  忙しいでしょうが、  お仕事もなるべく休んで下さいね」 言いながら私は玄関のノブに手を掛ける。 「…小川さん」 それを引いた時、 名を呼ばれてゆっくりと振り返ると、 「 ありがとう 」 その表情に、また胸が疼く。 だけど、私は綺麗な笑みを置いて 部屋を後にした。
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