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富士川さんはそのままタクシーを捕まえて、
私を中へと促した。
「もう遅いし、帰るよね? 送るよ」
隣に座り、運転手に行先を告げようとする。
だけど私は、
「富士川さんのお住まいは…どちらなんですか?」
それを遮るように静かに尋ねると、
少し開いた目がこちらを向いた。
「…え?」
「今日は私に送らせて下さい
熱があるのにそのまま帰って頂くなんて…
心配です」
目を見つめて逸らさない私に、
少し瞳を揺らした富士川さんは、
「…ないよ 熱なんて」
そう言って薄く笑う。
だけど、薄く眉間に皺を寄せれば
私の表情に観念したような小さな息が漏れた。
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