冷たい理想

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「じゃ ごめんね、  今日はありがとう」 そう言って降りようとする富士川さんに、 私はビジネスバッグ掴むと、 「少し待ってて下さい」と運転手に声を掛けた。 驚いた富士川さんが咄嗟に私を見た時、 「かなり熱が上がってるみたいですし、  部屋まで送りますから」 「…ありがとう、けど大丈夫だよ」 そう言って困ったように眉を下げながら外に出る。 だけど、一歩踏み出すと途端によろめく姿に、 私は急いでタクシーを降りて腕を支えた。 「……ごめん」 小さく呟いた富士川さんは、 ふらふらとエントランス横のボタンを押す。 エレベーターに乗り、 12階の突き当りの部屋の前で 「鍵、出せますか?」 そう訊ねると、富士川さんは小さく頷いて玄関を開けた。
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