冷たい理想

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ドアに手を置いてこちらを振り返ると、 「本当にごめん もう大丈夫   送れないけど、気をつけて帰って」 「……はい、けど…」 「本当に大丈夫だから  もう遅いし、早く帰って」 「…はい、ゆっくり休んで下さい  お土産、ありがとうございました」 私の目を見て微かに笑うと、「おやすみ」とドアの中へ消える。 バタンと閉まったドアの前で暫く立ち尽くしていた私は、 小さく息を吐き出して踵を返した。 タクシーに戻ると運転手に 「ここから一番近いコンビニに行って」 そう告げてシートに腰を落とす。 「…え?」 小さく訊き返されたけれど そのまま窓の外を見つめていると、 微かなため息と共に景色が流れ始めた。
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