冷たい理想

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「それもそうですよね」 残念そうに下げた眉のまま、 「けど…」と、声をひそめて私の横顔を見る。 「リード製薬、かなり騒がれてますよね…  大丈夫でしょうか…」 他人事でもない話題に、社内でその話が尽きない。 「…そうね、大丈夫かしらね 」 当たり障りなく濁した私は、 定時丁度に席を立った。 「…じゃ、お疲れ様  今日は先に出るわね  久しぶりに友達と約束があるの」 「そうなんですかぁ  女子会、いいですね」 女子会と決め付ける当たりが長濱さんらしい。 笑いながらそこで別れて先に更衣室へと向かった。 美奈子や真理との飲みは 本当はだいぶ前の約束だったけれど、 真理が風邪を引いて今日に延期になった。 外は吹き抜ける風が冷たくて、 思わずストールを引き寄せる。 そのままビルの隙間から空を仰ぐと、 駅へと急いだ。
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