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エントランスの明かりがぼんやりと照らすのは、
少し怯んだような、
『まずい』と書いたような顔
鞄を握りしめて俺を見上げるアヤへと手を伸ばすと、
さっきまでの勢いはどこにやら
ビクリ、と微かに肩が揺れた。
(―――――――)
構わず腕を掴んでだんだんと顔を寄せると、
俺を映した瞳は自然と伏していく。
それを見た俺は一瞬動きを止めるけれど、
そのままアヤに唇を重ねた。
薄い明かりが届く、
誰が見ているか判らない自宅前の路地
そこで女にキスをしているなんて
少し前の自分が見たら驚くだろう
そうしているうちに
目の前の体からだんだんと力が抜けていく
――――判らない
あれだけ怒っていたなら
俺を拒んで跳ねのけるくらいしそうなものを
どうしてそんな風に…
―――俺にすべてを任せようとする?
「……アヤさんの
心意気を買いたい所だけど…
女を家に入れないって決めてるから、
――――ここで帰って 」
俺は少し唇を離して
出来るだけ静かに、淡々と言葉を繋ぐ。
そうして細い肩をそっと押した時、
「……………は?」
さっきまでの余韻を一切見せないような、
裏返った声が耳に届いた。
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