傷痕

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手を伸ばせば触れる場所にいたのに その距離がだんだんと開いていく。 目を合わそうとする俺に気付いていながら、 アヤは逃れるように裏へと消えた。 「―――――――――――――」 去っていく背中を目にしながら あの時雨の中見送った後ろ姿がふっと浮かんで、 同時に思い起こしたのは、降り注ぐ冷たい雨の温度 数週間も前の事なのにそれが”今”のように鮮明で、 苦く重い気持ちのまま視線を落とす。 と、山梨が座っていた場所に、 汗をかいた水割りがぽつんと残されていて、 俺はそれを一気に喉に通すと、長い息を吐き出した。 「…理解、不能だな…」 どうしてあの場でアヤと寝たと言ったのか どうして胸の中に穴が開いた気分になるのか 理由や理屈を探すのに 俺自身を納得させられるものが見つからない 「失礼します、  アヤさんの代わりはどうしましょうか」 店員がおもむろに声を掛ける。 だけど俺は小さく首を振ると、ため息を残して席を立った。
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