421人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
手を伸ばせば触れる場所にいたのに
その距離がだんだんと開いていく。
目を合わそうとする俺に気付いていながら、
アヤは逃れるように裏へと消えた。
「―――――――――――――」
去っていく背中を目にしながら
あの時雨の中見送った後ろ姿がふっと浮かんで、
同時に思い起こしたのは、降り注ぐ冷たい雨の温度
数週間も前の事なのにそれが”今”のように鮮明で、
苦く重い気持ちのまま視線を落とす。
と、山梨が座っていた場所に、
汗をかいた水割りがぽつんと残されていて、
俺はそれを一気に喉に通すと、長い息を吐き出した。
「…理解、不能だな…」
どうしてあの場でアヤと寝たと言ったのか
どうして胸の中に穴が開いた気分になるのか
理由や理屈を探すのに
俺自身を納得させられるものが見つからない
「失礼します、
アヤさんの代わりはどうしましょうか」
店員がおもむろに声を掛ける。
だけど俺は小さく首を振ると、ため息を残して席を立った。
最初のコメントを投稿しよう!