見せない心

9/37
前へ
/37ページ
次へ
その眉間へと指を伸ばし、触れる寸前で止めると、 「言いたいこと  思い切り我慢してるって顔だな、と思って」 そう口にすれば、アヤはぴくりとこめかみを揺らす。 金を掴ませた事や、ピエモンテであんな風に別れた事も きっと何か言いたいだろう ―――だけど、 「今の渡瀬様は、お客様ですから」 綺麗に笑ったアヤが、 小さな唇がはっきりと動かして言葉を繋いだ。 少し間を置いてそれが胸の奥に落ち、 鈍く波紋のように広がる。 俺を見つめる雑多な色が混じった瞳 それから視線を外すと、 小さな息をひとつ零してまた先へと歩き出した。 (…予想外だな ) 俺が金を渡したからアヤは”アヤ”でいる その事が別の感情を生むなんてこの感覚はなんだろう ヒールの音を耳にしながら 街のざわめきが遠くに聞こえ出した時、 「あれから、あの男とは?」 静かに口にした俺に、腕を持つ手が僅かに震えた。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

450人が本棚に入れています
本棚に追加