450人が本棚に入れています
本棚に追加
その眉間へと指を伸ばし、触れる寸前で止めると、
「言いたいこと
思い切り我慢してるって顔だな、と思って」
そう口にすれば、アヤはぴくりとこめかみを揺らす。
金を掴ませた事や、ピエモンテであんな風に別れた事も
きっと何か言いたいだろう
―――だけど、
「今の渡瀬様は、お客様ですから」
綺麗に笑ったアヤが、
小さな唇がはっきりと動かして言葉を繋いだ。
少し間を置いてそれが胸の奥に落ち、
鈍く波紋のように広がる。
俺を見つめる雑多な色が混じった瞳
それから視線を外すと、
小さな息をひとつ零してまた先へと歩き出した。
(…予想外だな )
俺が金を渡したからアヤは”アヤ”でいる
その事が別の感情を生むなんてこの感覚はなんだろう
ヒールの音を耳にしながら
街のざわめきが遠くに聞こえ出した時、
「あれから、あの男とは?」
静かに口にした俺に、腕を持つ手が僅かに震えた。
最初のコメントを投稿しよう!