過去の楔

32/35
316人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
バタンと、 後ろ手に閉めたドアが大きく耳に響く。 真白とはあの日…、 居酒屋で別れて以来だった。 無意識に閉じた瞼の裏には、 宙を舞う紙幣と大きく開いた瞳 「……………………」 さっきの空気からはっきりと 俺と会いたくなかったと感じた。 だけど俺は――――、 会わない間、 ふとした時に今の顔を思い出して 苦さだけが色濃く残る。 それを繰り返すうちに、 いつの間にか心に棲みついていた事実を自覚させられた。 視界の端には冷めきったコーヒーと 手つかずのデザート (――――――――――――) 濁った深い息を置いて、 重い足を急かして部屋を後にした。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!