過去の楔 #2

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門をくぐる背中が見えなくなると、 シートに体を預けて自宅の住所を告げた。 そのまま静かに目を閉じる。 真っ暗な瞼の裏に浮かぶのは、 断片的な情景や胸に迫る表情で 手離した温度を思い出すように指先を緩く握った。 ラジオから流れる曲が何度か変わった時、 ふと目を開ければ見慣れた路地を曲がる所だった。 同時に見えたのは富士川さんのマンションで、 忘れかけていた痛みが胸に甦る。 人づてに聞いた話だと、 今はアメリカに出張中で、あれ以来会ってはいなかった。 短い息を吐き出したと同時にタクシーが止まる。
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