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門をくぐる背中が見えなくなると、
シートに体を預けて自宅の住所を告げた。
そのまま静かに目を閉じる。
真っ暗な瞼の裏に浮かぶのは、
断片的な情景や胸に迫る表情で
手離した温度を思い出すように指先を緩く握った。
ラジオから流れる曲が何度か変わった時、
ふと目を開ければ見慣れた路地を曲がる所だった。
同時に見えたのは富士川さんのマンションで、
忘れかけていた痛みが胸に甦る。
人づてに聞いた話だと、
今はアメリカに出張中で、あれ以来会ってはいなかった。
短い息を吐き出したと同時にタクシーが止まる。
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