椿荘と冬桜

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屋内へと続く石畳を歩きながら、 重い気分を逃がすように上を仰ぐ。 木々の隙間から、 薄い雲と高層ビルが同時に視界に入った。 「………………………」 次第に足が止まり、無意識に携帯を取り出す。 数回指を鳴らして 数か月振りに開いたアドレスを眺めた。 そのままボタンを押そうとした時、 液晶が着信画面へと切り替わる。 眺めていた名前の代わりに浮かんだのは 『佐藤』の文字で、 「―――――――――――――」 俺は小さく息をついて気持ちを逃すと、 携帯を耳に当てた。 「もしもし?」 「おー、一発で繋がるなんてめっずらしい  今日は休み?」 「…でもないけど  悪いな、任せきりで」 「いーよ   思いの外こっちもいい記事になりそうだし    あ、さっき判ったんだけど、  アポッドは3000例近く、薬の副作用情報を国に報告していないらしい  被害者の証言もあるし、  これも絡めて記事にしようと思うんだけど」
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