椿荘と冬桜

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「どうして、って……  お分かりでしょう、私たちは……」 「家の事情や立場はそれぞれです  だけど、心の中からその人を消して、  見合い相手を…代わりに出来ますか?」 「――――――――――――」 大きく吹いた風が木々を揺らした。 それと同時に言葉を飲む女が瞳に映り込む。 僅かに震える唇から視線を奥に移すと、 「―――あと、  その影から見てる人は…  住井さんの知り合いじゃないですか?」 「…え…」 咄嗟に後ろを振り返ると、女は更に息を飲んだ。 「…直人……」 木の下にある影が大きく揺れ、 ばつの悪そうな顔がこちらを覗いた。 だけど唇を結んだ男は、意を決したように こちらへと一歩踏み出す。
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